ステイン・アライブ

ピンスポットの照明を抑えた居心地のいい店内で私はひとときのオトナを満喫していた。

バーの棚にはライトアップされたさまざまなボトルやグラスが立ち並び

その中央にはピンクのネオンサインがくるくる回る装飾が演出された掛け時計…

時刻は8時少し前だった。

70年代にディスコで流行った曲が流れている。

今でもFMなんかでたまに耳にする曲だけど、彼はグラスを傾けながらこの曲のリズムは心臓マッサージに理想的とされて

実際アメリカで人命救助の実例があると言った。

私は彼の他愛ない話に静かに頷いて、セックスのリズムにはどうだろう?などと考えていた。

それから私は約束の時間に遅れてしまった、つい先程の事を振り返っていた。

お風呂にゆっくり浸かり過ぎていたせいで慌てて支度をして部屋を駆け出した。

改札口の人いきれを駆け抜けてしまうと私は歩調を整える。

時間に遅れて弾んだ息を彼に悟られまいとしたためだった。

私にはセフレがいる。

恋人ではなく、いついつと申し合わせた時間にこのバーで落ち合って、セックスを楽しんで別れるだけの関係だった。

彼とはネットで知り合った。

こうして現実に会って体を重ねても彼の事はショージというハンドルネームしか知らないし、彼も私をハンネでコスモスと呼ぶ。

平凡な生活を送る私にとって、セフレの彼はオトナの時間が過ごせる唯一のステータスだった。

すっかり馴染みのバーを出ると私たちはホテルの一室で抱きあっていた。

待ち合わせはいつも同じ場所を選ぶけど、ホテルはその日その時によって趣向が変わる。

ラブホなんておおよそ同じようなものなんだけど、ただ毎回同じ事を繰り返すのをなるべく避けていたいという思いからでもあると思う。

今日は思いのままに裸になり、互いのぬくもりを感じ合った。

ベッドの上に肩を寄せ合う感じで彼の腕に背中を預けると、ちゅっちゅと音を立ててキスを交わした。

華奢な肩を彼の腕にしっかりと包まれながら、あごに首筋に…

肩に乳房にと柔らかなタッチを繰り返されるだけで、私は息を弾ませて、オトナの時間に陶酔する。

彼は恋人ではない。

それは愛しさがあっても恋しさがないからだと私は思っている。

年は30といっていた。

私は2歳サバを読んで26だと言っている。

彼には奥さんがいるのかも知れないし、私が実際いくつであろうと私たちの関係には意味のない事なのだ。

[ あっ…つ… ]

乳首をきゅっと摘まれて私はつい声を漏らしてしまったが、痛かったわけではない。

首や肩に柔らかな唇を感じながら乳房を揉まれ、急に走った強い刺激に体が反応してしまった。

ショージはずいぶん女の体に慣れているようだ。

そうして、会う度に毎回違う愛され方を試してくれる…

毎晩のようにセックスをしていなければ、なかなかこうはいかないだろうと思ったから…

ゆえに、彼は結婚しているように思っただけなのだ。

私はゆっくりじわじわと高ぶってくる前戯が体質に合ってるような気がする。

今日は前戯とは思えないほどの激しい刺激で抱擁された。

その部分が水を含んだスポンジのように膨れ上がっているような錯覚を起こすほど

じれて熱くなった蜜壷に指を挿し込まれると思わず内股を閉じてしまいそうなほど痺れた。

[ ここ…どうだい? ]

[ んっ…そこが…いい… ]

指先が…ほんの少し挿し込まれたあたりをきゅっと押されると

まさに水を含んだスポンジからじわっと湧いて出るような切ない感覚を覚えて…

その切なさを一滴残らず搾り出して欲しいのといったように体をよじる。

[ こんなのちょっと試してみようか? ]

耳もとに触れる甘い言葉に促されるまま、私は脚を開いて彼の胸に背中を委ねた。

いやらしい事をされればされるほど、香りたつほどの甘いオトナのときめきに私は溺れていくのだった。

ぐしゅぐしゅ ぐしゅぐしゅ…

後ろから回された手はゆるやかに乳房を刺激しながら開いた花びらをいたぶるように震わせて

その迸るような刺激に私はついつい腰を揺らしてしまうのだ。

[ や…ぁ…ダメ…拡がっちゃう…っ… ]

二本の指が激しく動いているのが自分の茂み越しに見える。

その場所を刺激されると急激に高ぶりを感じて、もう片方の腕が濡れた花芯を刺激しだした頃には…

もう、耐えられない。

[ あぁっ…ダメ…漏れる…漏れちゃう…っ ]

無意識のうちにオシッコがびゅっと飛び出して、彼の手をかすめてシーツを濡らしてしまった。

なぜ?…

なぜ、あっという間に失禁なんかしてしまったんだろう?

恥ずかしくないと言えば嘘になるけれど、彼に対して私はずいぶん気を許してしまえるのだ。

[ やだ…激しくするから漏らしちゃったよォ…どうしよ… ]

放心したような私のつぶやきに彼は

[ それはオシッコじゃないよ。潮ふきっていうんだ。 ]

高ぶる気持ちの中で尿意をもよおしてしまった私だったけれど、体とは裏腹にいきなり漏らしてしまった。

オナニーしている時でも、たまにこんな事はあるけれど、微量に何かが噴き出るか…

あるいは中断しておトイレに立つ事もあった。

男性が射精する感覚って、きっとこんな感じなんだろうか?

膣か子宮が痺れてしまうような激しいオルガズムは感じなかったけれど、妙にさっぱりした感覚が残った。

まさにどちらかというとオシッコを我慢していたような、その感覚に似ている…

[ コスモス…感じやすいから、すぐに噴いたね。 ]

[ ヤダ恥ずかしいよ。漏らしちゃったよ… ]

[ すぐにイケるかい? ]

[ 私は大丈夫と思うけど…あなたしてあげなくてもいいの? ]

[ コスモスの感じ方ってかわいいから…もうびんびんになってるよ。 ]

そっと後ろ手に握った彼のものは、もう太くて脈打つように武っていた。

[ このまま(正常位)で入れる? ]

背中を倒した私がこくりと頷くと重なった体から太いものが私を貫いた。

[ ねえ…さっきの曲って…この時に使えないかしら? ]

[ ステイン・アライブ?… ]

[ あっ…やっ…深く突いちゃ… ]

[ こんな感じかな? ]

ホテルを出ると彼はいつもタクシー乗り場まで送ってくれる。

電車を利用する事で私は日常からシンクロして、帰りはタクシーでオトナの余韻を楽しむのが習慣としていた。

女のオルガズムはその時によって、様々だと思う。

それに女の幸せというのも、それに似たようなものかも知れない。

[ なぁ俺たち…違う関係になれないかな? ]

彼が言ったその言葉の意味を私は少し考えた。

[ 違う?…関係?… ]

[ つまり…コスモスの彼氏にしてもらえないか?

それとも…都合が? ]

[ もう少し…このままでいさせて…

私にはあなたで不都合なんてないと思うんだけど… ]

[ 不都合がなければいいんじゃないのかい? ]

[ こうしたあなたとの関係は特別なのよ。 ]

意外な言葉だったけれど、私は不思議と冷静でいられた。

セックスの前に告げられてたら、どう答えたか分からない…

ショージと会える事が私の唯一の楽しみかも知れないけれど、愛しいだけで恋しくなってしまうのが怖いのだ。

また…今度ね。


The end・・・・・・・