最後の白

レースのカーテン越しに、細く白い月が覗く。

俺はそれを眺めながら、ぼんやりと入浴中の彼女を待っていた。

ふたりが過去へとなろうとしている夜。

明日の朝、彼女はこの部屋を出て行く。

一緒に過ごした3年8ヶ月の間に狂った歯車はもう、愛だけでは巻き戻せなくなっていた。

 「起きてたんだ」と、ワンピースのルームウェアを着た彼女が、ショートヘアをタオルで拭きながら戻ってきた。

 「いや、月が奇麗だなって思って」

 「あ、ホントだ。奇麗」

ポーチの中から小瓶を取り出し、化粧水をつける。

彼女の荷物はほとんど運び出してしまったので、残っているのは旅行用のキャリーひとつだ。

沈黙したままの部屋で、言葉が見つからない。

彼女が手のひらで化粧品を馴染ませる音が、やけに響いた。

 「わっ」

いたたまれなくなって、彼女を背中から抱き締めた。

彼女の手が、俺の腕に伸びる。ひんやりとした手、震える躯。

 「ごめん、ごめんね」

 「それは言わなくていい、言わないで」

そのままうなじに口づけた。まだ少し濡れたままの髪が、まぶたに当たってひんやりとする。

そのまま、唇を耳たぶに移す。ゆっくりと耳の形をなぞりながら、飴を舐め溶かすように味わう。

手を乳房に回し、ゆっくりと円を描く。

耳から首筋へ、首筋からもう片方の耳へ、唇を這わせる。

 「んっ、はぁ…」

吐息がこぼれた彼女の唇を、自分の唇で塞ぐ。

彼女の腕が俺の首に回される。

舌が絡み合い、唾液が甘く交じり合う。

手がゆっくりと彼女の体の側面をなぞる。

腕、脇、脇腹、そこからルームウェアに手を入れる。

手にちょうど収まる乳房の頂上を、指の腹で撫でる。

軽く摘み上げたり撫でたりを繰り返しているうちに、頂上の蕾が膨らんできていた。

俺の背中を這っていた彼女の手が、Tシャツを脱がす。

既に捲れ上がっている彼女のルームウェアを取り去る。

「見せて」と言うと、恥ずかしそうに彼女は頷いた。 

月に照らされた彼女は、今までに見たこともない美しさだった。

この眼はいつか、誰かを見つめるだろう。

この唇はいつか、誰かと口づけるだろう。

この髪も肩も乳房も、いずれ誰かが触れるだろう。

だからこそ、今日までは俺のものとして、全てを焼き付けておきたい。

もう一度口づけて、彼女を抱き締める。

舌で喉から鎖骨へラインを描き、乳房の頂上を口に含む。

さくらんぼを食べるように、そっと転がす。片手で彼女の泉に触れると、そこはあまりにも潤沢に潤っていた。

泉の上にある芯に、溢れる水を塗り込む。唇で頂上の蕾を愛でながら

片手でもう片方の乳房をこね回し、利き手の指で敏感な芯を撫で転がす。

蕾から唇を離し、泉で喉を潤す。敏感な芯を唇で挟み、極上のチョコレートを味わうかのように、ゆったりと舌を動かす。

手で内腿を撫でながら、次第に舌を速く動かしていく。

「あっ、あっ、ねぇ、あっ、んー…っ」と叫んだ瞬間、彼女は背筋を反らし、何度かビクンビクンと体を痙攣させた。

まだ息の荒い彼女が、俺のボクサーショーツをまさぐる。

脱がされると、痛いほどに膨張した欲望の根が、先をネチャネチャと光らせながら反り立っていた。

薄い衣を被せようとすると、彼女は首を振った。

彼女がピルを飲んでいることは知っていたが、万一のために衣をずっと被せていた。

 「いいの?」

 「うん…そのまま、感じたいの、体温を」

月に照らされて魅惑的に光る泉へ、己の欲望の根を宛がう。

ゆっくりと、奥へと沈めていく。とろとろと温かい泉に包まれる。

一番深くまで沈めたまま、彼女を強く抱き締めて口づけた。

髪に、おでこに、瞼に、頬に、唇に。

 「愛してる」という言葉はもう、今更届かない。

だからこそ、彼女への愛情を全て、躯で伝える。

彼女の躯に、少しでも俺のしるしが残るように。

そっと根を抜き、ゆっくりと深くまで差し込む。

泉を作っている柔らかいひだが絡みつく。

大きくゆったりとした動きで、泉を掘り進めていく。

少しずつ速度を上げ、根を突き刺す。

奥へ、奥へ。彼女の吐息が断続的に漏れる。

お互いの躯が火照って汗ばむ。

俺の頬を、汗ではないものが伝っていた。

「…もう…無理だ、…いい?」

 「ん…来て、一緒にっ、…いくから」

 そして、一度大きく引き抜いた根を、彼女の泉の先まで貫くように、打ち込んだ。

 「あああっ…」

 「ん…くっ」

 白い欲望が、彼女の泉へと飲み込まれていく。

彼女を抱き締めながら、一生分の欲望全てを注ぎ込んだ。

もう二度と精を吐き出せなくても構わない、全てを注ぎ込めるなら。

肩で息をしながら、ゆっくりと根を引き抜くと、泉から溢れ出た欲望が白く濁ってしたたり落ちた。

この上なく哀しくこの上なく狂おしい快感の名残を確かめるように、その夜は数年ぶりに手を繋いで眠った。

彼女の冷たい手と、俺の汗ばんだ手。

すやすやと眠る彼女と、まどろみを繰り返す俺。

明日はもう、このベッドには、俺ひとりになる。

小さく呼吸をしながら眠る彼女の顔を見つめているうちに、気付けば空が白み始めていた。

夜が、終わる。 

駅まで送る、という申し出を断り、玄関先で別れた。

彼女が階段を降りる音が遠ざかってから、部屋の窓を全て開けた。

春の初めの風が吹き込む。この風が、彼女のいた空気も匂いも連れ去ってくれるように祈りながら

ジンジャーエールを飲み干した。



The end・・・・・・・